SLA(第二言語習得)理論には、様々な仮説があります。その中でも今回は、インプット仮説について詳しく解説していきます。
参考:『SLA(第二言語習得)理論に基づく英語学習のメカニズムを解説』
インプット仮説は非常に極端な考え方であり、全てを鵜呑みにすることは言語習得の妨げになる
仮説の一つとして知るだけに留めておき、実践するのはやめましょう。
インプット仮説の概要
『言語習得は、母語も外国語も言語内容を理解することよってのみおこる』
Stephen Krashen, 南カリフォルニア大学 名誉教授
インプット仮説は、南カリフォルニア大学名誉教授のスティーブン・クラッシェンが唱えた仮説です。
クラッシェンは、現在の言語レベルを「i」とした時に、それよりも僅かに高いレベルを「i+1」と呼びました。
学習者は現在の能力を大きく超える「i+2」のインプットでも、現在の能力と変わらない「i+0」のインプットでもなく、「i+1」という理解可能なインプットを受け続けることで自然と言語を習得していくと提唱しました。
つまり、インプット(リスニング及びリーディング)さえできていれば、スピーキングやライティングの学習をしなくても話したり書けたりできるようになり、英語を習得できるというのです。
このように、第二言語習得におけるアウトプットの必要性を否定し、「i+1」という理解可能なインプットのみが第二言語習得につながるという非常に極端な主張をしたのがクラッシェンの仮説における一番のポイントです。
インプット仮説の具体例と反例
クラッシェンは、自身が提唱したインプット仮説が正しいことを証明するために、様々な証拠を挙げました。
しかし一方で、他の学者によってインプット仮説に当てはまらない反例も示されています。
インプット仮説の具体例
世界中でインプット仮説についての研究や成功例が報告されていますが、ここでは幼児と大学生の例を挙げてみました。
幼児の例
子どもの言語習得は、周りの大人や子どもの話を聞き、それを真似することで徐々に言葉を覚え発することができるようになると一般的には考えられています。
しかしクラッシェンのインプット仮説では、全く逆の例が紹介されています。
例えば、ある幼児はある日突然『今日は雨だね』と完全な文を話し始めました。それまでは全く話し始めず単語の一つさえも発しなかったのに、いきなりです。
大学生の例
ある学生が大学の夏休み中に外国語の集中講義を履修していました。授業内容は講義形式で、先生の話を聴くだけというもの。
当然ながら授業中に外国語を話す機会はなく、授業外でもそのような機会は設けませんでした。
その数ヶ月後に外国語の実力を測るテストを受けたところ、話す能力が向上していたのです。
インプット仮説の反例
一方で、インプット仮説の具体例は極めて特殊であるとする主張を裏付ける具体例を紹介します。
テレビからは言語習得が難しい
両親が聴覚障害で言葉が発せず、主にテレビから言語を習得していた子どもがいました。その子がケースワーカー(生活援助者のこと。
日本では馴染みがないが、アメリカでは一般的な職業)に発見されたのは4歳弱でしたが、会話をしてみると文法的に不自然な点が多く見られたと報告されています。
受容的バイリンガルのケース
受容的バイリンガルとは、二つの言語を聞いてどちらも理解することはできるが、その一つは話すことができない人のことです。
私の大学時代の友人で、幼少期をアメリカで過ごし大学入学と同時に日本に帰ってきた人がいました。
両親はともに日本人です。
彼女は現地で日本人学校に通っていた結果、英語を聞き取ることができるけど話すことはできないという典型的な受容的バイリンガルでした。
このように、インプット仮説は反例があるため実践すべき理論とは言い切れません。
では、どのようなプロセスで学習することが良いのでしょうか。
代表的なSLA理論の言語習得プロセス
SLA(Second Language Acquisition:第二言語習得)理論とは、『第二言語を習得する際の脳内メカニズムを科学的に研究・解明し、効果的な学習方法を提示する学問のこと』で、定義の通り第二言語を効率よく学習するための学問です。
SLA理論について知りたい方はこちらの記事をどうぞ。
参考:『SLA(第二言語習得)理論に基づく英語学習のメカニズムを解説』
インプット→アウトプットが効率的
近年のSLA理論によると、第二言語を学ぶ際にはインプットからアウトプットまでの適切なプロセスを踏む必要があり、順序を守ることで効率的に英語力を向上させることができると考えられています。
基礎学習(単語・文法)から学習を開始して、受容スキル/インプット(読む・聞く)を向上させます。そして最後に産出スキル/アウトプット(話す・書く)を習得していく流れです。
なぜインプットを学習した後にアウトプットを学習することが効率的なのか。理由があります。
まず前提として、知識は以下の3つに分類されます。
- 知っていて他人にも説明できる
- 知っているが他人には説明できない
- 知らない(当然、説明もできない)
『知っていて他人にも説明できる』知識は、インプットもアウトプットもできていることになります。
『知っているが他人には説明できない』知識は、インプットはできているがアウトプットはできていません。
『知らない(当然、説明もできない)』知識は、インプットすらできていないという状態です。
アウトプットの範囲がインプットの範囲を超えることはない
ここから言えることは、インプットができていないとそもそもアウトプットは絶対にできないということです。
知らない知識を原稿などは何も見ず誰かに説明することは不可能ですよね?知っているからこそ、その知識を説明できます。
つまり、アウトプット学習を始めから行うのではなく、インプットの学習をした後にアウトプットの学習をすることが大事だということが分かります。
上の図は典型的な学習例で、アウトプット(話す/書く)に重きを置くと短期的には成長します。
しかしアウトプットの範囲はインプットの範囲を超えることは絶対にないので、成長はすぐ頭打ちになってしまいます。
一方、下の図は理想的な学習順序を表しています。
まずはインプットの範囲を広げてから、アウトプットの範囲を広げます。この順序で学習を行うことで、アウトプットの成長が頭打ちにならず、話す/書く能力が効率的に伸びていきます。
まとめ:インプット仮説は実践向きではない
いかがでしたでしょうか。インプットだけで英語が習得できるなら楽で良いかも!と思った方もいるかもしれませんが、英語を習得するためには順序を踏んでアウトプットの学習もしなければいけないことが分かりました。
この記事でも紹介したように、英語はSLA(第二言語習得)理論に基づいて学習することをおすすめします。
巷には様々なメソッドで溢れかえっていますが、SLA理論は科学的な根拠をベースにしており信頼性が極めて高いです。
SLA理論を採用している英語スクールの中で、私のおすすめはプログリットとENGLEAD。
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