なぜ日本人は英語を話せないのでしょうか。
少なくとも小学生もしくは中学生から英語に触れてきた人が多く、単語や文法も知っていますよね。
留学中にスペイン語圏の人たちと話す機会がありましたが、彼らの文法はめちゃくちゃでした。
それでも現地の人は、日本人が話す英語よりもスペイン語圏の人たちが話す英語のほうが聞き取りやすいと言っていました。
なぜか。それは、英語と日本語は言語の距離が限りなく遠い関係にあるからです。
この記事では、日本人が英語を話せない理由を第二言語習得理論の観点から詳しく解明していきます。
前提:第二言語は母語を基礎に習得される
まず前提として知っておきたいのは、第二言語は母語を基礎に習得されるということです。
つまり英語に置き換えると、幼少期に英語圏に居住して帰国した方を除き、日本に住んでいる日本人のほとんどは日本語を基礎として英語を習得することを示しています。
母語である日本語を通して英語を学ぶのが最も効率的
実は50年前には、このような考え方は一般的ではありませんでした。
しかし、言語間の距離と外国語習得度の相関関係が立証されてからは、第二言語習得理論を語る上で非常に重要な根拠となっています。
言語間の距離と言語習得の関係
言語間の距離とは、ある一つ言語ともう一つの異なる言語がどの程度系統的に似ているかを示したものです。
学習者の母語と学習対象となる言語が似ていれば似ているほど、つまり距離が近ければ近いほど、全体としては、学習しやすいのです。
『外国語習得の科学』より引用
たとえば、英語はインド=ヨーロッパ語族に属しているため、母語が英語の人はおなじインド=ヨーロッパ語族に属するドイツ語やイタリア語を習得しやすいと言われています。
上の図をみるとわかるように、世界には様々な語族に分かれています。
もう少し極端な例をだすと、ポルトガル語とスペイン語はおなじロマンス語に属しており単語や文法の類似が非常に多いため、言語自体は異なっていても何とかコミュニケーションが取れてしまうという不思議な現象さえ起きてしまいます。
下の表のように、アメリカ人が日本語を習得するには約2200時間、1日に3時間学習したとしても733日、つまり約2年も必要だと言われています。
アメリカ人にとって日本語を習得することがいかに難しいかよく分かります。
逆もしかりで、日本人が英語をいちから習得しようとすると毎日3時間の学習を2年続けなければいけません。
言語間の距離が非常に離れているので、そもそも日本人にとって英語を習得することはかなり忍耐が要求されることだと言えます。
言語転移という現象
言語間の距離が近い言語は学びやすい/距離が遠い言語は学びにくいということが分かりました。
そのような言語間の距離に関わらず、母語が第二言語の習得に影響することを言語転移と呼びます。
英語って難しい…そう考える大きな理由は、言語転移が起きているから
たとえば、日本人は英語の発音が上手にできないと言われていますよね。
代表的なのがRとLの発音。
日本語にはRの音がないので、『right』と『light』を聞き分けられなかったり区別して発音できない人が多いです。
英語上級者でも苦労している人が多い印象だね
これも一つの言語転移です。
言語転移は発音に限らず、単語や文法など様々な形で母語の影響が現れます。
言語間の距離と言語転移
日本人英語学習者にとって言語転移は悪影響しかないように思いますが、じつはメリットもあります。
言語間の距離が近いもの、たとえば英語とスペイン語/ドイツ語だと母語の影響がでやすくなってしまいます。
たとえば、英語で『intelligent(日本語訳:知性のある)』をスペイン語やドイツ語で訳すと以下のようになります。
驚きますよね。
スペルに関しては英語とドイツ語では全く一緒、スペイン語もほとんど同じです。
しかしここで注目したいのはアクセントと発音(一番右のカタカナ)で、英語とドイツ語・スペイン語のアクセントおよび発音は異なっていますよね。
つまり、ドイツ人英語学習者やスペイン人英語学習者は、母語に影響されるがゆえに『intelligent』のアクセントや発音を間違えてしまう可能性が非常に高いということ。
intelligent、英語でどう発音するんだっけ…
それだけではなく、間違いがなくなりにくいことも分かっています。
実際に私がアメリカに住んでいた時スペイン人と英語で会話をする機会があったのですが、スペイン語の発音に影響を受けすぎて聴き取りに苦労した経験があります。
言語間の距離が離れていると母語の影響を受けにくいので、日本人は英語の正しいアクセントや発音を身につけられるベースがあるとも捉えることができます。
ただし、日本人がリスニングに苦戦する理由はまた別問題で、そのひとつに音の変化が挙げられます。
スピーキング重視の学習と言語転移の問題点
第二言語習得理論によると、スピーキングを重視しすぎると言語転移が起こりやすくなると言われています。
日本の英語教育/思想の弊害はまさにこれ。英会話スクールにいけば上達すると思って通ったけど、言語転移が起きてしまい日本語発音の英語をする人がかなり多いよね
とりわけこの問題が起きやすいのは、英語学習初級者で英単語や英文法の知識が十分ではない場合。
なぜかというと、英単語や英文法の知識がないと和製英語や日本語の文法を使用してしまい変な英語を話してしまう危険性があるからです。
いちど癖づいてしまうと修正が難しいのが言語。
知識がないレベルのうちからスピーキング学習を重点的におこなうと、早々に言語転移が起きてしまいます。
すると、あとから知識を補充しても脳の回路はすでにできあがっているので日本語英語しか頭に思い浮かばないことは往々してあります。
スピーキング重視ではなく、レベルに合わせた英単語・英文法の知識拡充と、インプット(聞く/読む)とアウトプット(話す/書く)のバランスが重要です。
日本語の主語欠落
『日本語には主語がない』とよく言われますよね。
たとえばあなたが財布を無くし、あらゆる場所を探し尽くし財布が見つかりました。
そう、『財布が見つかった』と日本語では表現しますよね。
考えてみよう。この文章の主語は、『財布』なのかな?
しかし財布は自分から見つかりに来るわけではなく誰かによって見つけられるものなので、英語では『The wallet was found.(財布が見つけられた)』と表現します。
『財布が見つかった』をそのまま英訳すると『? wallet found』となり主語がありません。
このように、日本語では主語が欠落している文章を話すことが非常に多いので、通じやすい英語を話すことは難しいと言われています。
参考図書の紹介
英語を習得するうえで、理論を理解しているのとそうでないのでは大きな差がでます。
理論についてもっと詳しく知りたいという方は、以下の本をぜひ手にとってみて英語を体系的に理解しましょう。